昔、監督がこう言っていた。
「今日何をするかを今決めているヤツは占い師と一緒だ!」
高校バレー部時代、練習メニューの相談に教員室に行った時の一言だ。
当時は全く理解できなかったが、そう言い放った監督の背中に今では感謝できる。
時折、監督はタイムアウト時に行き当たりばったりの展開に”占い師か?”と鼓舞していた。勝敗問わずにだ。
要は、「決めてから動け。」ということなのだろう。
今の行動の連続性に思い描いた未来はやってこない。
高校生のCobAにそれを理解するのは困難だった。
…
“インプロ”という幻想
即興で物事を成す事を”インプロヴィゼーション”と言います。
ダンスで言うところの”フリー”です。
フリーは、まるで今考えたかのように踊り、事前に準備してこなかった事を美徳に思う節があります。
よく「降ってきた。」と表現することがありますが、脳科学としては有り得ないのが定説です。
もしくは、”テキトー”にと言う言葉が合っているのかとも思います。
まさか、ダンスの先生が言う「今考えた。」とか「今初めて曲を聞いた。」と言った言葉を信じてはなりません。
本当に今、その場で行ったのだと言うのなら、それは詐欺だと思ってもらって良いでしょう。
なぜなら、人は想像できる事以外はできないのです。
思ったように動くことは、過去の集大成であり、五感を使った知識なのです。
実は、CobA自身も若い時に、即興性の言葉を過剰に評価していた時期があります。
それはなんとも楽で心地良いのです。
レッスン前に曲を決め、聞いたまんまにフリを作る。
これだけ聞くと、カッコよく思えるのですが、一定期間そのままだと「あれ?この動きこの前やったな…」とか「どの曲も同じに聞こえるな…」とか、まるで五感を失ってしまったかのような感覚に陥るのです。
その原因は、単純なインプット不足でした。
人はやはり、努力の値がそのまま表に出るです。
例えば、フリーの途中で止まってしまう場合。
手先は動いていても、リズムやグルーヴが無くなるようなムーブはよく見かけます。
実際にそれを行なっている人は”踊っているつもり”なのでしょうが、見ている人は”止まった”と表現するでしょう。
創作ダンスや表現運動なら、立派な表現の範疇ですが、ストリートダンスで止まってしまう(動いていない)のは、音響トラブルで曲が止まってしまうことと同義なのです。
もし、ダンスの中に止まってしまうショーを感じた時にはストリートダンスの枠を外して見ることをお勧めします。
今の話にも出てきたように、リズムとグルーヴはストリートダンスの根源でありどの時代でも社会が求めたソーシャルダンスなのです。
曲が終わる時はすなわち、パーティーの終わりでです。
ダンスを踊るときに最も大事なのは、終わりを決めることでしょう。
拍手のもらい方を決めれば、その前の動きが決まるようにダンスは逆算で物事を進めていきます。
その為にどうするか?をいちいち行動する前に予測していく。
基礎だってそれによってだいぶ違うことになるでしょう。
見た目は一緒でも辿り着く場所が違う。
キッズダンスでいえば初めてダンスを教えた先生がその子の将来を決めるのです。
昔、師匠から言われたことがあります。
少し上手に踊れる女子高生を指して、
「あの子の前の先生は男だろ?女性らしく踊れるようにしてあげなかったから今すごく苦労している。ダンスがわかっていない先生にあたってしまったんだな。。。よく頑張って上手くなったよ。」
と、少し呆れたように言っていたのが印象的でした。
師匠が言いたかったのは、きっと経過点で価値決定をしないことだと感じました。
ダンスは続けたもん勝ちです。
続けると言うのは、ゴール設定のことで単純に続けるだけではなく目的を持って継続することを言います。
しかも、それは個別である必要がある。
人の思考や好みは違いますし、その上体型だって変化します。
男女差もありながら、生活環境だって影響してきます。
とかく、キッズダンスは子供の判断力を絶対的な力を持つ先生が影響を及ぼしていくのですから、押し付けやエゴがあっては先に述べたようになってしまいます。
ストリートダンスは、リズムとグルーヴといった不確定要素が絶対的カギになるダンスです。
人の好みによるのです。
芸能界や、学生スポーツのように期限付きの消費ダンスではそんなこと考えている方が無駄だということは、自分自身嫌というほど経験してきました。
そうではなく生涯を通したライフダンスでは、”人がどう思うか?”の前に”自分がどうでありたいか?”が問われてきます。
先生と呼ばれる人は、その子の未来予想図の中にどうダンスが組み込まれたら楽しくなりそうなのか?を多角的に予想できる経験値と創造性が求められます。
逆算で求められる答えは、とても具体的で現実的です。
そして確実的なのです。
逆算することは、非現実的な未来予想図から、目の前の確実な一歩を踏み出す為の公式と言っても過言ではないでしょう。